計画
窯を作るのにまとまった時間が取れないことと予算がかかることが理由で、なかなか窯作りに踏み切れないまま薪窯計画は10年以上にわたりました。
私の本当の理想の窯はアースオーブンでした。
山があればお金をかけずに土窯を作れます。
自然から借りたもので窯を作れるのが一番の理想だったのですが、私は山を持っていません。
なので材料にお金をかけて窯を作ることにしました。
ざっと計算するだけでもかなりの予算が必要になります。
お金をかけるなら実験的なものは作れない。やるならやろう…と思いました。
参考にしたもの
石窯を作る参考書と言えば、まずDIYの本が思い浮かぶと思います。
こんな石窯を作りました…いう人の参考例、素人でもできる、短時間でできる…という耐火レンガを積んだ窯。
様々なタイプの窯が掲載されていて、見ているだけで楽しくなってきます。
DIY雑誌の良い所は、レンガやモルタル、工具の取り扱いについての知識を初心者でも分かりやすく習得できることと、様々な参考例を見ることができる所です。
ですが、私が参考にしたのはパン屋の窯が掲載されている本でした。
その理由は2つです。
①DIY雑誌で紹介されている窯はピザを焼く目的の窯が多く、パンを焼くとなると実際どれぐらい蓄熱できるのか不明。どんなパンがどんな風に焼けるのか分からないから。
②耐久性がある窯を作りたいから。
DIY雑誌は素人でも作りやすい窯を紹介してくれます。
その反面、どれぐらい長持ちするのか、どれぐらい蓄熱・断熱できるのかがよく分かりません。
一生に一度のつもりで予算をかけて作る窯…使い物にならず、だたの場所取りになってしまう窯を作るわけにはいきません。そうなると、日々真剣にパン作りに取り組むパン職人が使う薪窯を参考にしたいと思うようになりました。
そこで参考にした雑誌がcafesweets vol.84 です。
薪窯でパンを焼くことに日々真剣に向き合うブーランジェの窯が紹介されています。
何度読み直したか分からないぐらい魅力的な本。
全国の色んなお店の薪窯と、おいしそうなパン達が掲載されておいます。
2008年の本ですが、どうせもっと古い時代の石窯を倣ったものなのだから内容に問題はありません。
ただ時間が経過しているだけに、新しく窯を作り直したり、経営の内容が変わっている店舗もあるようです。
この本に掲載されているお店が現在はどのように変化しているのかを見届けることができるのも楽しみの1つです。
本以外でもSNSやyoutubeで様々な石窯・薪窯を検索し、参考にしました。
形状
どんな形状の窯にするか?
これは窯の機能を左右する一番大事な部分です。
「石窯」で検索すると様々な形があることが分かります。
石窯には主に、薪を燃やす燃焼室(火床)とパンを焼く焼成室(焼き床)が一緒の一層式タイプと、
燃焼室 と焼成室 が別の二層式タイプの2通りがあります。
さらに天井の形状も重要になってきます。
天井部が平らなスクエア型、
天井部がドーム状になっているドーム型、
かまぼこのような形をしたアーチ型があります。
一層式にするか二層式にするか。
それに加えて、天井の形状をどうするか。
ネットで販売されている石窯キットで最も多いのは一層式です。
ですが、この中でも私が一番理想的だと感じたのが 二層式×ドーム型でした。
その理由は3つです。
①メインで焼きたいのはピザではなくパンだから
②パンを焼く時にいちいち灰を掻き出さなくていい
③ドーム型の方が炎の流れがスムーズ
ここで大事なのは、ピザを焼くための窯とパンを焼くための窯とは全く別だということです。
追い焚きはピザを焼く時に有効です。
薪を燃やしながら高温を保ちつつピザを焼きます。
ですが、パンは薪が完全に熾火(おきび)になり、窯内の温度が落ち着いてから焼くので、追い炊きはほぼ不要です。
もし追い焚きするにしても、1ターン目の焼成が終わって2ターン目に入る前に温度が低すぎれば追い焚きするぐらいだと思います。
温度の降下と共に、パンの焼成温度が高いものから低いものへと順に入れ替えていきます。
薄いピザと違ってパンは厚みがあるため、ピザを焼く時のような高温で焼くと表面だけが焦げて中が焼けていないということになるからです。
一層式でパンを焼く時、ほとんどの場合は灰を掻き出してからパン生地を入れます。
ですが、二層式なら燃焼室に灰を残したまま、焼成室でパンを焼くことができます。灰が邪魔になることはありません。
ではなぜ一層式の窯を作る家庭が多いのか?
その答えはシンプルで、ピザを焼く目的がメインだから。そして簡単&安価で作れるからです。
一層式と二層式では必要になる耐火レンガの数が倍近く、または倍以上変わってきます。
すると当然予算も倍以上。作成するのにかかる時間も大幅に変わってきます。
つまり、ピザを焼く目的だけならトータルで考えると一層式の窯の方がいいのかもしれません。
二層式でピザを焼いている人もいますが、下火が弱いという理由で(大抵の場合、余熱が不十分なのが原因)結局、二層目で火を起こす人も少なくないようです。
ただ、一層式は薪を燃やしている横でピザを焼くので、ある程度の広さの火床が必要となります。
パンを焼くのが目的の場合、一層式でも蓄熱・断熱がある程度できれば問題はなく、ただパン生地を入れるために灰をどける手間がかかるだけです。
でも私があえて二層式を選んだのは…
もし一層式を作ったとしても、二層式だったらどうなっただろう?二層式も作りたいな…となるのが目にみえていたので、二層式を作ることにしました。
天井部分の形状について。
スクエア型は天井の高さに変化がなく、四角く角張った作りなので、炎が効率よく回る気がしません。
アーチ型(かまぼこ型)は横から見るとスクエア型と一緒です。
背面から天井に繋がる部分は直角となり、天井トップの高さは背面から入口まで同じです。窯の後ろから炎が上がるとして、まず天井の直角部分にぶつかります。
すると炎は直角部分にぶつかって勢いを失います。
さらに天井と同じ高さに煙突をつけると、天井部に溜まった熱気がすぐに煙突から出ていってしまい、天井部に熱を全く溜め込めない作りとなってしまいます。天井の高さよりも煙突の吸気口を下げる工夫が必要となるでしょう。
ドーム型では煙突を付ける位置が重要になってきます。
入口から背面、背面から天井へと熱気が回っていきますが、天井の一番高い位置に煙突の吸気口があれば、熱気は溜まることなくどんどん煙突から排出されてしまいます。
天井の高さよりも煙突の吸気口を下げることで天井部に熱を溜め込むことができます。
以上のことから、熱を回すにしろパンを焼くにしろ、私が面白そうだなと思ったのは二層式×ドーム型でした。
そこで下の図のような窯の作りに決定しました。
私が参考にしたのはフランス式の窯でした。
一見三層式のようにも見えますが、二層式の燃焼室を上下に2分割したような形です。
なぜ燃焼室を二分割にしたかというと、燃焼室の地べたで薪を燃やしても薪がよく燃えないからです。
薪を効率よく燃やそうと思えばロストル(網)の上に薪を置く必要があります。
ですが上の図にようにわざわざ燃焼室を二分割しなくても、燃焼室の左右に耐火レンガを置き、その上に網を渡せばロストルとなり、レンガの高さ分の隙間から空気を取り入れることができます(そのためには火床を上下に多少広くとる必要があります)
実は、ロケットストーブの作りに注目したことがありました。
簡単な造りながら、着火の速さとその火力の強さに惹かれ、庭で何度か耐火レンガを積んで燃焼テストをしました。その時にロストルがあるのと無いのでは燃え方が違ったのです。
そしてその時ちょうどネットで見たのがフランス式の窯でした。
それは業務用の大きな窯で、炎の吹き出し口に「グラ」という部品を取り付けて、大きい窯の奥まで熱が届くように工夫されています。
私が作ろうとしている窯は家庭サイズなのでグラは必要ありませんが、2つの部屋に分かれた燃焼部分と丸い穴のヒントはそのフランス式の窯から得ました。
そして、燃焼室から焼成室に向かって炎が上がった時に天井の直角部分に当たって勢いを失うことがないよう、直角ではなくカーブを描いたような天井にしました。
窯の大きさ
窯の大きさについては最後の最後まで悩みました。
どうせ作るなら大きい窯がいいと思ったのですが、大きい窯を温めるには燃料も沢山必要となります。
窯が大きくなるとその分庭も狭くなります。(庭がそんなに広くないのです)
焼き床が広いと一度に沢山焼けて理想的なのですが、果たして家庭の窯で焼く量はどれぐらいだろう?と考えました。
今までの私の焼き方の傾向から、多く焼く時で3~4種類。ハード系のパン、食パン、菓子パン、お菓子などです。それぞれ電気オーブンの天板で1枚~多くて2枚分ずつ。
温度でいうと、ハード系は大体230~250度ぐらい、食パンや菓子パンは200度ぐらい、お菓子は180~200度ぐらい。
温度は少しずつずれているので、段取り良く窯に入れれば家庭の電気オーブンでもなんとかなる量です。それを考え、今使っている電気オーブンよりも一回り大きいぐらいのサイズに留めることにしました。家庭用だということが前提です。
扉と煙突
扉はカッコいいのを付けたい!
扉にお金をかけて、煙突はホームセンターに売っている数千円のものを付けよう。
…と、ずっと思っていました。
ですが資料を読んでいくにつれ、窯にとって肝心なのは扉よりも煙突であることが分かってきました。
扉の大きさや形も大事ですが、それ以上に窯内に火力をうまく回しながらも煙を出にくくするために、煙突の材質や長さが重要な鍵になってくるというのです。
煙突には主に3つのタイプがあります。
①シングル煙突(私が最初に買おうとしていた煙突)
・室内用として一般的に使用される一重の煙突。
・放熱製が高く、外気温に左右されやすいため、屋外の設置には向かない。
②中空二重煙突
・外側の筒と内側の筒の二重仕立てで、断熱材は入っていない、空気層が確保された状態の煙突。
・主に室内で利用し、壁との距離を近づけたい場合に使用する。
・排気の温度が下がりにくいため、安定したドラフト(上昇気流)を得られる。
③断熱二重煙突 (今回使った煙突)
・外側の筒と内側の筒の間に断熱材が充填されており、保温性・断熱性に優れている。
・外気温に左右されないため、排気の温度が下がりにくく、安定したドラフトが得られる。
・シングル煙突に比べ高価だが、機能性・安全性・メンテナンス性に優れている。
私が最初に買おうと思っていたのは①のシングル煙突です。この説明を読んだとき、これは予算が大幅に変わってくるな…と焦りました。
①よりも②が、②よりも③が断然高いのです。
太さの違うシングル煙突を2つ組み合わせて自分で断熱二重煙突を作る方法も探ったのですが、煙突を繋げる部分がどうもうまくいく気がしません。
リスクがあるものに中途半端なお金を掛けるのが一番怖かったのと、一生に一度の窯作り(のつもり)なので後悔をしたくないという理由で、悩んだ末に市販の断熱二重煙突を付けることにしました。
太さは150mm(外筒径200mm)にしましたが、120mmでもよかったかと思うことになります。
こちらの記事を参照 → 煙突の太さについて
扉については欲しいものが決まっていたので迷いませんでした。
扉についての詳細はこちらの記事を参照 → この扉を選んだ理由
窯の屋根
屋根は私が絶対に必要なもののうちの一つでした。
雨が降って窯が濡れた所に火を入れると窯が傷みます。また、窯作りには1年ほどかかるだろうと思っていたので、作る時の雨風をしのぎたいと思っていました。
いよいよ窯を作ろうと決断した時、主人にその事を伝えると、すぐに「屋根を作ろう」と言ってくれました。
(我が家では主人が木工部門、私がモルタル部門です)
実は私の母の病気が急に進行し始めた事を知り、窯作りに取り掛かる決断をしました。
母は私が作るパンをいつも喜んで食べてくれたので、薪窯で焼くパンを母に食べてもらいたかったからです。
そんな事情を主人もよく知っていたので、すぐに屋根作りに取り組んでくれました。
母の病気の進行があまりにも早く、結果として間に合わなかったのですが、主人が屋根を作ろうと言ってくれたからこそ今の窯があると思っています。
余談になりましたが、屋根はやはり先に作って良かったです。多少の雨でも気にせず作業を続けることができました。
屋根がないと作業後にシートを被せたりする手間が増えるので、できれば窯を作る前に屋根を作った方がスムーズなのではないかと思います。
設計図について
自分が作ろうとしている窯が実際どれほどの大きさになるのか?耐火レンガは何個いるのか?
シミュレーションで確かめたくて、無料ソフトをダウンロードして簡単に3Dで設計図を作りました。
結局最後まで設計図として紙に図面を書くことはないまま、PC上でレンガを積んでプリントアウトし、それを見ながらレンガを積みました。
最初はソフトをうまく使えずにイライラしていましたが、何パターンも作るうちに段々とコツを掴めました。基本的な操作だけであれば、使っているうちに慣れると思います。
特に燃焼部分(火床)については何度もやり直して今の形になったのですが、実際にレンガを積んでみなくても画面上で形を確認できるため、イメージが目に見えてとても便利です。
実際レンガを積んでみると設計図通りにいかなかった所もありましたが、大きいものを作るとなると失敗はできないのでシミュレーションは大事な作業だと思いました。私が使ったのは「SketchUp」(スケッチアップ)という無料のソフトです。CADができる方には不要ですが、無料でインストールできる上に妄想しながら楽しめるのでおすすめです。
何パターンも設計図を作りましたが、最終的に決まったものが下記のものです。
基本的なことは大体ここで決めていましたが、ドーム部分の詳細は決めていませんでした。
頭の中ではなんとなくレンガを組んでいたのですが、それを立体的に図にすることが難しく、ドームは実際にやりながらなんとかしようと思っていたからです。
この設計図の段階では、基礎と側面に使用したブロックとブロックの間の目地に1cmをとっていますが、レンガとレンガの間の目地はほとんどとっていません。
というのは、レンガの目地は2mmぐらいにしようと思っていたから。
ところが実際にやってみると2mmでは到底無理なことが分かります。
その詳細はこちらに記載します → 予想外だったこと③目地と設計図
他にも作りながら変えていった所も沢山あるのですが、とりあえず予定の段階での図面はこうでした。